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by kateido2000
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橋本治という立ち止まり方   by橋本治

<夜明け前>

例えば川端康成の「雪国」は
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」・・・で、
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」・・・は夏目漱石の「草枕」

・・・で、私はこの2冊をどちらも読んではいない。ついでにいうと
「吾輩は猫である」だってちゃんとは読んでいない。

であるから、「木曾路はすべて山の中である。」で始まる島崎藤村の「夜明け前」だって、もちろん読んでいないのであります。なのに何故冒頭の一文が頭の中に入っているかというと、ただこれは受験や試験のために覚えたにすぎません。
そしてそれらの書物を読み返そうという気にも全くならないまま現在に至る、です。

それでも「橋本治」は読むわけで、彼の近著によると、彼は入院生活を余儀なくされ、この際と「夜明け前」を読みふぃけったんだそうです。
以下↓彼の文。

「尊王攘夷」という言葉は四文字熟語化してしまうが、なぜ「尊皇Lと「攘夷」が一体化していなけれぱならないのかということが、まともに問われることもない。結局は「尊皇開国」というところで日本の近代はやって来るが、そうなる前の時に「尊皇で、開国つていうのはどうだろう?」なんてことを言ったら、「天誅!」と叫ぱれて刃が降って来る。そもまず、「尊皇Lというあり方が分からない。開国派の将軍の側近が「私は尊皇ですよ」と言ったって、「嘘つけ!」の声が飛んで来て、駕籠に刀が突っ込まれる。将軍というものが天皇の朝廷から任命されるものである以上、将軍を擁するものが「尊呈」の態度を取らざるをえないのは当たり前なのだが、体制は幕府を嫌って『我こそ尊皇!」の名乗りを上げる人間達からすれぱ、将軍を擁する者が「尊王]と言うのは、欺鴎的もいいところになってしまう。どこかに重大な「ボタンの掛け違い」はあるのだけれど、誰もそれに気がつかないのか、問題にしょうとする気がないのか、ただ騒々しく、流れる方向にだけ流れて行く。問菌は、その「流れる方向」がどこなのかということだが、その落ち着き方は、「1.まず流される。2.その逆に流れる.3.最初の流れの方向に戻るように見えて戻らず、新しい流れのようなものが出来る・4.その他いろいろあって、とどのつまり、なんとなく決定的な流れが出来てしまう」
「距離を置いてみると、幕末は騒々しいだけで、実りがあるんだかないんだか分からない。そもそも、日本人に議論なんか向かないんじゃないのか?」と思う。『夜明け前』を読みながら、「幕末って、騒々しいだけのドタバタ劇じゃないか」と思い直す私は、四十年ぱかり前の学生時代の騒々しさを思い、「政権交代後」の民主党政権の騒々しさを思う。「どうしたらいいのか分からない」という点でうろたえまくる民主党は、崩壊聞近の徳川幕町みたいだが、そんな比喩を持ち出したって意味はない。中心から遠く離れたところにいる青山半藏を主人公にした『夜明け前』は、「日本人に議論は向いているのか?そもそも人類に議論が向いているのかどうか、よく分からないぞ」と考えさせるような小説ではあります。


イマイチ「尊王」だの「攘夷」だのが理解できないでいた私。目からウロコの1冊。
橋本治はゲイだとカミングアウト(このアウトって差別じゃね?)したけど、ゲイの人って本当に頭がいいよね。
橋本治は芸者置屋だかなんだかの息子で、なんだか東大に入っちゃったという人で、卒論は「鶴屋南北」
鶴屋南北ってあの「東海道四谷怪談の作者ですよね。


それからこれはメッチャ有名な話しで(四十年ばかり前の学生時代の騒々しさと書いている)、橋本が東大在学中の昭和43年、まさに東大紛争が
ピークに達しようとしたときの駒場祭ポスターに打ったコピーが↓であります。
「とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが 泣いている 男東大どこへ行く」
で、そのイラストを描いたのが横尾忠則でした。
両名とも二十歳そこそこの若さで、凄い才能と才能がぶつかったものです。
この当時の東京大学はこういう知性で満ち溢れていたような気がします。ま、入試が中止にはなったけど。
橋本治という立ち止まり方   by橋本治_d0073646_19504231.gif


ところで橋本治に触発されて「夜明け前」読んでみようかと・・・。う~ん、「夜明け前」、第4巻まであるぞ・・。
橋本治という立ち止まり方   by橋本治_d0073646_2012511.jpg

by kateido2000 | 2013-01-22 19:49 | 好きな本好きな映画